コーチングという言葉が世間に広まってきている昨今ですが、スポーツのトレーニングコーチとビジネスやパーソナル/ライフコーチの行うコーチングが同じものと理解している人はいまだに多いのではないでしょうか。
トレーニングコーチとの誤解
企業の人事向けの機関紙The HR Agendaがコーチングについての特集をしたとき、表紙の絵は、コーチが社員に命令し、社員がひるんでいるものができあがってきたそうです。投稿したコーチたちはその表紙に驚き変更を依頼したものの、変更の余裕がなかったため、表紙に”Fear-based Leadership is out”(恐怖を基盤にしたリーダーシップはアウト)(※スポーツをイメージしたフレーズです)という文字を入れてもらったと聞きました。
スポーツのコーチはプレイヤーに指示、アドバイスをし、プレイが悪いと怒鳴りつけるというイメージがあるかもしれません。
しかし、ビジネスやパーソナルコーチングにおいて、コーチがクライアントに意見したり、指示したりすることはありません。サジェスチョンをする場合は、クライアントの許可をとらなくてはいけないとプロのコーチは理解しています。
それはなぜでしょう。その理由は明確です。人は人に言われなくても、自発的に考え、行動することが可能だからです。そして、人に言われるよりも、自ら気づいて行動するほうが、モチベーションが高まり結果につながります。
例えば、アメリカでは大企業のトップは通常コーチをつけていますが、彼らはコーチに指示をしてもらうためや、アドバイスをしてもらうためにコーチをつけているのではありません。自分のビジネスについては社長自身が一番わかっています。しかし、コーチをつけることによって、見えなかったことに気づき、考えなかったことを考え、別の視点で物事をみることができるため、現在の思考や行動を振り返り、新しいアイデアや行動が生まれるからです。
スポーツのコーチであってもコーチング的コーチであるとプレイヤーの強みを引き出します。アメリカで2度のワールドシリーズ優勝に導いた元ロサンゼルス・ドジャースのトミー・ラソーダ監督はプレイヤーの可能性を引き出すコーチングをしていたそうです。これは日本の先輩コーチに聞いた話ですが、私は野球が詳しくないため彼がどんな監督だったのか詳しく説明ができず残念ですが、野球に詳しい方は想像できるのではないでしょうか。
コーチングの常識としての誤解
誤解はまだまだ続きます。
ウィキペディアにもこのように記載されています。(2015年7月26日)
「コーチング(coaching)とは、人材開発の技法の1つ。 対話によって相手の自己実現や目標達成を図る技術であるとされる。 相手の話をよく聴き(傾聴)、感じたことを伝えて承認し、質問することで、自発的な行動を促すとするコミュニケーション技法である。 」
英語でCoachingをWikipediaで検索するとこのように記載されています。(2023年ごろ)
“Coaching is training or development in which a person called a coach supports a learner in achieving a specific personal or professional goal.”
(コーチングはコーチと呼ばれる人が特定の個人または専門職業の目標を達成するために学習者をサポートすることにおいてのトレーニングまたは進歩である)
2015年のウィキペディアでは、「コーチングは人材開発の技法の1つ、コミュニケーション技法である」と書かれています。よく言われる「コーチングはコミュニケーションスキルである」という説明です。
コーチングスキルの中の1つにコミュニケーションスキルがあるのであって、コーチングスキル=コミュニケーションスキルではありません。コーチングスキルの中には、コミュニケーションスキルの他に、関係性を構築する、相手の内省を促す、アカウンタビリティをサポートするなど、さまざまなスキルがあります。コミュニケーションがうまく取れる人は、話し相手にいつも気づきが生まれるとは限りません。コーチングは、相手とのコミュニケーションを取るだけでなく、相手が達成したいこと(ゴール)を設定し、そこに相手が主体的に到達する、気づきが湧き出るなど、成長を支援するアプローチだからです。
また、2023年ごろのウィキペディアにはコーチングはトレーニングだと記載されています。コーチングは何かを教えるためのトレーニング(研修)は存在しますが、一対一あるいは一体他のコーチング自体はトレーニングではありません。トレーニングとは向上を目的として教えを受け学ぶことですが、コーチングにおいて先生と生徒のような上下関係はなく、コーチとクライアントは対等な関係です。
このようにウィキペディアでもコーチングに対して誤解をしているのですから、コーチングが誤解されるのは当然と言えば当然。ウィキペディアがどのように変わっていくかを追っていったら、世の中にコーチングが正しく理解されているかがわかるかもしれません。